【糞噺】黒猫「人の子よ・・・」
それは唐突に。
それは何の拍子も無く。
僕の家の門の上でジっと見つめていて。
そして、"それ"はあまりにも自然的に、
そして通りすがる人々にも全く意を介さずに喋りやがった。
黒猫「人の子よ・・・」
僕は夢を見ているのだろうか?
白昼夢?それにしては妄想や幻覚にしてもふざけ過ぎる。
きっと僕は疲れてるんだろう。
黒猫「人の子よ・・・」
この広大な世界においてココまで流暢な日本語を喋る猫は果たして居るのだろうか?
某携帯獣アニメの某猫キャラが人間の言葉で喋ってる例はあるけど、
あれは所詮、創作の世界の話だしなぁ。
その創作の話が今現実に起きてる訳だが。
そんな喋る猫だが、
言ってる事はまさしく創作世界にありそうな話に出てきそうな言葉を発していた。
これはアレかな?
某小説投稿サイト流の方法で異世界に導こうとしているのかな?
それとも、これからこの現実の世界で非現実的な事が起きますよ的な。
黒猫「人の子よ・・・」
黒猫は僕の事をジーっと見つめ、尻尾をゆっくりと横に振りながら同じことを言った。
てか、さっきから同じ言葉しか言ってない。
これってもしかして、僕が何か一言発したりして、
一つフラグを立てないと話が進まない系のヤツかな?
現実の世界に降り立ってるってのに、NPCみたいな事をしやがって・・・。
僕「あ、あの・・・」
僕は勇気を振り絞って、喋る黒猫に一言を発した。
黒猫はビクッと一瞬動きが止まり、目も大きく見開いたが、
すぐに元の状態に戻り、僕の事をずっと見つめていた。
さて、次はどんな事を言ってくれるのか・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。
黒猫「人の子よ・・・」
・・・・・・。
嗚呼。成程ね。
僕は理解してしまった。
これは・・・間違いない・・・。
おそらく、この黒猫は・・・。
黒猫「人の子よ・・・」
極度のコミュ障だ。
とりあえず、よくありがちな導入から始めようとしたけど、
いざ人の前に立つと緊張で言葉が出てこなくなるというアレだ。
よく見ると黒猫は滝の様な汗をかいており、声もさっきより若干こもり始めている。
極めつけはさっきから同じ事しか言えないという事だ。
これはもう言い逃れ出来ない。
彼は極度のコミュ障だ。
黒猫「人の子よ・・・」
でも、なぜこの黒猫がコミュ障だと分かったのかと言うと・・・。
それは勿論・・・。
黒猫「人の子よ・・・」
僕「あ、あの・・・」
黒猫「人の子よ・・・」
僕「あ、あの・・・」
黒猫「人の子よ・・・」
僕「あ、あの・・・」
僕も極度のコミュ障だからだ。
緊張で次の言葉が全く出てこない。
顔が汗でビッショリだし、声もどんどんこもっていく。
極めつけはさっきから同じ事しか言えないという事だ。
これはもう言い逃れ出来ない。
僕も極度のコミュ障だ。
その後、黒猫と僕のお互い敬遠しあう会話のキャッチボールは陽が沈むまで続いた。
この地獄の様な無限ループの会話は、
パート帰りの母の「なにしてんのアンタ」という一言でようやく収まった。
黒猫は母を見るなり、そそくさと逃げていった。
その後、喋る黒猫は二度と僕の前に現れなかった。
もしかしたら非現実的な体験が出来たかもしれないと考えると少し勿体ない気もしたが、
仮に異次元の世界でやっていけるのかと言われると、
それは無理だと即答すると思う。
それは何故かって?
極度のコミュ障が一人で世界を救えるとは思えないし、
それ以上に某携帯獣アニメが見れなくなるからね。
そんな訳で、僕の何事も無い平和な日常は今日も今日とて続くのであった。
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